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教室創設30年を迎えて

慶應義塾大学医学部救急医学教室は,1988年5月に慶應義塾大学病院の中央診療部門として「救急部」が創設されたことに始まり,昨年(2018年)に30年を迎えました.

その節目となった昨年5月に新病院棟(1号館2期棟)が開院し,新「救急センター」は旧来の約3倍規模となりました.この新しい救急エリアは,全ての救急患者初療をエリア内で完結することをコンセプトに設計されています.

これまで年間約7,000台の救急車受入を行っていましたが,さらに受入体制の強化が実現しました.

大型屋根を設置している入口は除染設備の完備した救急車搬入用と自力来院用に分離されており,さらに患者待合も一般用と感染症対応用に完全分離されています.

初療室は,一般用2床,専門領域(産婦人科,眼科,耳鼻咽喉科,歯科・口腔外科)の診察用4床,感染症対応用2床(陰圧切替可),重症対応用3床(陰圧切替可,一部X線遮蔽対応),内視鏡対応可1床(陰圧切替可,X線遮蔽対応)の合計12室となっています.これに加えて経過観察用5床が用意されています.

また,同エリア内にCT 検査室,X線一般撮影室,歯科X線撮影室を設置してあり,画像診断も迅速かつ安全に対応できます.さらに,緊急時にはエリア内に設置されている専用エレベーターで手術室,集中治療室(ICU・HCU),周産期エリアのフロアまで直通運転可能となり,重症患者の初療後の対応も円滑に行われています.

このように,これまでのER型救急診療を基盤にした緊急手術対応を含む重症患者受入が確実に強化され,救急科で年間350名程度の緊急入院患者を担当し,約7割はICU・HCUに入室しております.また,開放骨折対応を含む外傷,急性腹症,熱傷,皮膚・軟部組織感染症などの緊急手術を中心に,当科主導で年間250件程度の手術も行っております.

さらに,慶應義塾大学病院は,区西部医療圏(新宿区・中野区・杉並区)にある東京都災害拠点病院として,災害時の重要な医療拠点の一つとなっています.その事業計画の一つに掲げられている「災害に強い都市型地域医療の推進」の実現に向け,救急エリアを核とした都市型災害への取り組みを強化しています.

2020年に開催されるオリンピック・パラリンピック競技大会では,収容人数約7万人となる主会場の新国立競技場(オリンピックスタジアム)の直近医療機関として重要な医療拠点となります.

小児を含む外国人対応,熱中症対応,新興・再興感染症を含む感染症対応,自然災害(急激な天候悪化による雷撃傷,大規模地震など)への対応に加え,近年になり急速にその危険性が高まっているテロ対応も含め,新しい救急エリアを有効活用した救急医療体制のさらなる強化を進めていく予定です.

これまで,第3世代の救急医に必要な3つの「C」であるCooperation(協働),Challenge(挑戦),Contribution(貢献)の重要性を強調し教室運営を行って参りました.教室創設30年を迎えて,変化する状況や予期せぬ出来事に対して,柔軟かつ上手に適応し,影響を低減し,迅速に回復する力であるResilience加えた「3C+R」で,今後も教室員一丸となって診療・教育・研究に邁進していく所存です.引き続き,宜しくお願い申し上げます.

2019年1月19日
慶應義塾大学医学部救急医学 教授
慶應義塾大学病院救急科 診療科部長
佐々木 淳一

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