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ご挨拶

救急医療は「セーフティー・ネット」の一部

佐々木 淳一
佐々木 淳一
慶應義塾大学病院 救急科
教授・診療部長

救急医療は、安全な社会生活を守るために欠かせない「セーフティー・ネット」の一部です。

救急科は救急医療に関する病院の窓口であり、救急車で搬送されるすべての患者さんの診療を担当します。救急外来には24時間体制で救急科専門医が常駐し、重症度や年齢に関わらず、病気や外傷・熱傷・中毒などまで幅広く救命医療を含めて診療を行える体制が整えられています。

診療の結果、各診療科の専門治療が必要な場合には、迅速に各診療科の医師と協力して治療を行います。入院を必要とする場合には、救急科を含め、病気の種類に応じた専門治療を考慮した適切な診療科に入院します。自力で救急外来を受診した患者さんには、看護師がトリアージを行い、各診療科の医師が中心になり対応します。

また、当院は東京都災害拠点病院の一つに指定され、日本DMAT(Disaster Medical Assistance Team: 災害派遣医療チーム)指定医療機関にもなっています。

2022年挨拶

2020年に引き続き,2021年も新型コロナウイルス感染症パンデミック対応に明け暮れる試練の年になりました.その状況は現在のオムクロン株による第6波を迎え,さらに厳しいものになっており,多くの医療関係者が尽力されておられることと拝察申し上げます.長きにわたり各施設,あるいは行政機関等で,新型コロナウイルス感染症対策の中心となりご尽力されている皆様に心より敬意を表します.

昨年はコロナ渦の状況ではありましたが,真夏の7月から9月にかけて開催されました東京2020大会における新国立競技場(オリンピックスタジアム)における医療対応を担当し,無観客開催ながら無事に終了しました.多くの皆様より叱咤激励およびご指導,ご援助を頂きましたこと,この場を借りまして御礼申し上げます.これまで,我々には”レジリエンス(Resilience)”,すなわち「変化する状況や予期せぬ出来事に対して、柔軟かつ上手に適応し、影響を低減し、迅速に回復する力」が必要な時期であることを強調して参りました.このような国際的大規模催事において,主導的に医療対応を担当する機会を得られましたことは,慶應救急医学にとりましても貴重な経験になったと考えております.

近年,”フレキシキュリティ(flexicurity)”という柔軟性を意味する”flexibility”と安全を意味する”security”を組み合わせた造語が注目されています.1990年代に社会民主党のデンマーク首相であるポール・ニューロップ・ラスムセンが提唱したデンマーク福祉国家における積極的労働市場政策モデルを示す言葉です.これまで強調して参りました”レジリエンス”の柔軟性のみならず,今後は安全というものがこれまで以上に重要なキーワードであると考えられ,現在の救急医療の現場にも必要なモデルではないかと考えております.

2021年は令和辛丑(かのとうし),強固な意志で誠実に粘り強く進む年でしたが,2022年は壬寅年(みずのえとらのとし)「沈着・冷静」を念頭に,「新構想創造」の年と言われております.これまで対応に明け暮れてきましたコロナ渦における過去の経験を,如何に教訓として活かせるかが,新構想創造としてのポストコロナの医療を考える上で重要と考えております.

フランスの哲学者アランは名言に,「幸福だから笑うのではない,笑うから幸福なのだ」という一節があります.「行動を起こすこと,すなわちアクションから,本質が生まれる」という考え方です.本質はあくまでも事後的に発生するものであって,本質という抽象はそれ単独で先行的に存在するものではない,さらに言えば,新しい構想を創造し具現化していくためには,まずは自らのアクションが必要となるでしょう.

本年も教室員一丸となって診療・教育・研究に邁進していく所存です.よろしくご指導賜りますよう,重ねてお願い申し上げます.

 

最後に,教室として本年は2つの学術集会を主催致します.7月28日(木),29日(金)に第48回日本熱傷学会総会・学術集会を慶應義塾大学三田キャンパスを会場として,テーマは『With/After Coronaの熱傷診療〜Japanese Total Burn Careを考える〜』となっております.続いて,9月16日(金),17日(土)に第37回日本救命医療学会総会・学術集会を東京ミッドタウン日比谷BASE Qを会場として,テーマは『救命医療の未来は君の手に』となっております.教室員一同で実りある学術集会開催に向けて準備を進めておりますので,多数の皆様のご参加を心よりお待ち申し上げます.

 

2022年(令和4年)1月
慶應義塾大学医学部救急医学
佐々木 淳一

これからの救急医に必要な
“3つのC + R”

救急医はよく「医の原点」と呼ばれていますが、その歴史は世代ごとに進化してきました。

昭和40年代頃、いわゆる交通戦争と呼ばれる車による事故が多発した社会で、外傷外科に特化した重症患者の診療にあたったのが「第1世代」。次いで、北米型ERの導入をきっかけとして、軽症も含めた1次~3次救急のすべてを診察するようになった「第2世代」。

さらに、従来のER型救急診療を基本としながらも、来院前のプレホスピタルから救急外来、集中治療室での重症患者の治療まで一貫して引き受けているのが我々「第3世代」ということなります。

そして現代、日本中のあらゆる病院に「救急科」が設置されて来ていることでも分かるように、外科や内科とともに救急医学の専門性が社会でも認知をされてきました。

これからの救急医療を担う第4世代には、幅広い社会のニーズへ対応しながら、いかに「セーフティー・ネット」になりえるか、が強く求められてくると思います。

そのために当科では、未来を見据えたプロフェッショナルな人材を育成するため「3つのC + R」というスローガンを掲げています。

  1. Cooperation 協働
    救急現場ではチームで活動することが特に重要です。刻一刻と変化する状況の把握、他科との連携など、「協働」こそ救急医療の根幹を成すものです。
  2. Challenge 挑戦
    従来のやり方に留まらず、新しい方法や新しい道を模索し、創造していくべきと考えます。常に社会の先導者という意識で「挑戦」し続けることです。
  3. Contribution 貢献
    これからの救急医療はいかに社会のセーフティーネットとなりえるかが鍵となります。社会ニーズに応え、「貢献」出来る医師こそ我々の理想です。

  • Resilience 回復力
    今後は予測不可能な事態に遭遇することも予想されます。我々には変化する状況や予期せぬ出来事に対して、柔軟かつ上手に適応し、影響を低減し、迅速に回復する力が必要です。

《当科の紹介映像をご覧ください》

公開日:2018年5月27日