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ご挨拶

救急医療は「セーフティー・ネット」の一部

佐々木 淳一
佐々木 淳一
慶應義塾大学医学部救急医学 教授
慶應義塾大学病院 副病院長・救急科診療科部長

救急医療は、安全な社会生活を守るために欠かせない「セーフティー・ネット」の一部です。

救急科は救急医療に関する病院の窓口であり、救急車で搬送されるすべての患者さんの診療を担当します。救急外来には24時間体制で救急科専門医が常駐し、重症度や年齢に関わらず、病気や外傷・熱傷・中毒などまで幅広く救命医療を含めて診療を行える体制が整えられています。

診療の結果、各診療科の専門治療が必要な場合には、迅速に各診療科の医師と協力して治療を行います。入院を必要とする場合には、救急科を含め、病気の種類に応じた専門治療を考慮した適切な診療科に入院します。自力で救急外来を受診した患者さんには、看護師がトリアージを行い、各診療科の医師が中心になり対応します。

また、当院は東京都災害拠点病院の一つに指定され、日本DMAT(Disaster Medical Assistance Team: 災害派遣医療チーム)指定医療機関にもなっています。

2024年新年挨拶

この約4年間,何度となく対峙してきたCOVID-19パンデミックの大波は2023年5月の「5類移行」で一様の「収束」を迎えたといえ,withコロナの状況はまだまだ長期化しています.現在(2024年1月)第10波を迎えようとしており,インフルエンザの猛威と相まってツインデミックの様相を呈しています.真の「終息」にはまだまだ時間がかかることでしょう.

真の「終息」を願う時代となっている現代の社会情勢は,複雑性が増し、想定外のことが次々と起こる予測困難な状態であるといえます.近年,Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとって「VUCA(ブーカ)」という言葉が使われています.19世紀に活躍したイギリスの詩人であるジョン・キーツは,不確実で、どうにもできない状況だとしても、拙速に事実や理由を求めることなく、そこに留まって耐える能力を「ネガティブ・ケイパビリティ(negative capability)」と呼びました.負の力,陰性能力とも訳され,答えの出ない時代を耐えていく力だともいえます.長期化するwithコロナの状況では,VUCA(ブーカ)の時代を生き抜くために,ネガティブ・ケイパビリティ(negative capability)のような力が必要となると考えます.

「幸運(幸福)は用意された心のみに宿る」.細菌学を切り開いたフランスのルイ・パスツールはこう語ったとされます.試行錯誤や努力を重ねて技能を磨いていなければ,チャンスを引き寄せてつかむことはできないという格言です.救急医療の現場は予測不能の連続です.本年は,年始より能登地震,羽田空港航空機事故と予測不能な事態が続きました.救急医学・医療の現場を担当する部門として,社会のセーフティーネットの中心的役割を果たせるよう,不確実でどうにもできない状況であるVUCA(ブーカ)の時代を生き抜き,その先の時代を先導していけるよう教室員一丸となって診療・教育・研究に邁進していく所存です.社会に幸運(幸福)がもたらされることを願ってやみません.

本年もよろしくご指導賜りますよう,重ねてお願い申し上げます.

 

2024年(令和6年)1月
慶應義塾大学医学部救急医学
佐々木 淳一

これからの救急医に必要な
“3つのC + R”

救急医はよく「医の原点」と呼ばれていますが、その歴史は世代ごとに進化してきました。

昭和40年代頃、いわゆる交通戦争と呼ばれる車による事故が多発した社会で、外傷外科に特化した重症患者の診療にあたったのが「第1世代」。次いで、北米型ERの導入をきっかけとして、軽症も含めた1次~3次救急のすべてを診察するようになった「第2世代」。

さらに、従来のER型救急診療を基本としながらも、来院前のプレホスピタルから救急外来、集中治療室での重症患者の治療まで一貫して引き受けているのが我々「第3世代」ということなります。

そして現代、日本中のあらゆる病院に「救急科」が設置されて来ていることでも分かるように、外科や内科とともに救急医学の専門性が社会でも認知をされてきました。

これからの救急医療を担う第4世代には、幅広い社会のニーズへ対応しながら、いかに「セーフティー・ネット」になりえるか、が強く求められてくると思います。

そのために当科では、未来を見据えたプロフェッショナルな人材を育成するため「3つのC + R」というスローガンを掲げています。

  1. Cooperation 協働
    救急現場ではチームで活動することが特に重要です。刻一刻と変化する状況の把握、他科との連携など、「協働」こそ救急医療の根幹を成すものです。
  2. Challenge 挑戦
    従来のやり方に留まらず、新しい方法や新しい道を模索し、創造していくべきと考えます。常に社会の先導者という意識で「挑戦」し続けることです。
  3. Contribution 貢献
    これからの救急医療はいかに社会のセーフティーネットとなりえるかが鍵となります。社会ニーズに応え、「貢献」出来る医師こそ我々の理想です。

  • Resilience 回復力
    今後は予測不可能な事態に遭遇することも予想されます。我々には変化する状況や予期せぬ出来事に対して、柔軟かつ上手に適応し、影響を低減し、迅速に回復する力が必要です。

《当科の紹介映像をご覧ください》

公開日:2018年5月27日