1 はじめに
慶應義塾大学救急医学教室は、国内外を問わず、コミュニティに貢献できる救急医の育成を目標としています。そのための臨床・研究・教育体制が当科にはしっかりと備わっていると自負しています。
当院の強みは、救急専門医プログラムの3年間のみならず、皆さんの10年先のキャリアプランまで考え、共に歩んでいくところにあります。
ER医、集中治療医のみならず、外傷外科医、整形外傷医、IVR医、精神科救急医(関連施設)を育成してきた実績があり、新専門医制度においても引き続き個人に合わせたキャリア構築を後押ししていく方針です。新専門医制度になって以降、ダブルボード取得が難しくなったこともありますが、大学病院として各科に掛け合い、ダブルボード取得を全力で後押しすることができます。
ここでは当科が作成した救急科専門研修プログラムの内容を、イメージしやすいようにお示します。
2 教育スタッフの特徴
当科では、救急専門医・指導医はもちろんのこと、各サブスペシャリティ領域の専門医を取得した、当科の専従スタッフが直接教育を行います。専門医の内訳は以下のようになります。
スタッフ専門医・指導医内訳
スタッフサブスペシャリティ専門医内訳
3 近年のレジデントのサブスペシャリティ選択動向
当科における直近2年のレジデントの選択サブスペシャリティは以下のようになります。
外科系、内科系、IVR、精神科とその志望は多岐にわたり、救急医としての基本をしっかりと身に着けつつ、さらにサブスペシャリティに特化した院内、院外出向を選択することができます。
サブスペシャリティが未定のままで研修をスタートすることも勿論可能です。ただ早期に志望を決めていた方が、より充実した研修と早期の専門医取得に向けての準備を万全にすることができます。
2019年度
2020年度
4 医師生涯教育のための3本の柱
医師としての長い人生を充実して過ごすためには、医師生涯教育を支える臨床・教育・研究の3本柱をバランスよく伸ばしていくことが不可欠だと考えます。我々はみなさんの10年先のキャリアを見据え、この3本柱の土台となる重厚な教育体制を敷いています。
5 当科専攻医プログラムの到達ビジョン
まずは皆さんの今後3年間の目標、当科の専攻医プログラムを終了した際にはは、下記のような医師像に到達していることを目指します。
- 全次救急の初期診療を行うことができ、重症患者については蘇生を行い、手術加療に参加し、集中治療を行い、患者の安全な社会復帰を促す。
- サブスペシャリティ領域については、指導医とともに手術加療などを実践的に行う。
- 専門医を取得し、外来患者、入院患者についてベッドサイドで初期臨床研修医に指導できる。
- 指導医と共にCQ(clinical question)を設定して臨床研究への仮説をデザインし、症例報告や研究発表において適切な論文検索を行い、発表・論文投稿することができる。
- 基礎研究については、興味があるものは現在進行中の基礎研究に参加し、基礎研究を進める上での基本を習得する。
6 当科の教育体制
上記の到達ビジョンを達成するために、当科には以下のような、大学病院ならではの多彩な学習機会を設けています。
カンファレンス(木曜午前)
- ER診療の基本 対象:専攻医・研修医
- 症例検討会 対象:スタッフ・専攻医・研修医
- 専門医レクチャー 対象:スタッフ・専攻医
各種勉強会など
- journal club
- 集中治療勉強会
- cadaver実習・ASSET模擬コース
- 他職種シュミレーション教育
- Tintinalli抄読会
- 心電図演習
- 超音波実習
- keioemergencymedicine
すべての教育コンテンツは、専門スタッフのアテンドによって施行され、高いクオリティが維持されています。コンテンツはクラウドにアーカイブされ、レジデントはいつでもそれを参照し、実臨床や研究にフィードバックすることができます。コンテンツは逐次更新、改善を施されてレベルアップしていっています。
特に週一回開催されるカンファレンスでのER診療の基本や症例検討会の発表では、海外のガイドラインをただまとめるだけではなく、ガイドラインの礎となった論文の解釈や、新規論文の内容までも盛り込むことが求められ、その上で、若手からスタッフまで非常に活発な議論が繰り広げられます。もちろん、最初からクオリティの高い発表を行うことは難しいですが、トレーニングを積むことで、どの若手にも負けない論文の読解力、および救急医としての絶対的な礎を築くことができます。
7 勤務体制
当科では、スタッフ専攻医研修医の別なく、医局員全員が外来病棟をともに診ています。
大学病院にありがちな、業務の主体が雑用であり、ルールばかりが先行するような研修には決してならないように配慮しています。アカデミックワークに割く時間をできる限り担保しつつ、さらには関連病院での当直によって症例曝露が可能となるように、風通しの良い、新しい、大学病院での勤務体制を作り上げることを目標にしています。
専攻医は平均して日勤4コマ、夜勤4コマのdutyがあります。
外来勤務は8時−17時、17時–8時の2交代制、外来常駐医は2名で、日勤帯は3名の初期研修医、夜勤帯は5名の初期研修医がともに診療に当たります。完全な休日は週約1日ですが、夜勤前の勤務はなく、また夜勤明けは引き継ぎ後は明け休みとなります。
上記以外は病棟勤務に従事します。チームリーダーを中心に、バランスよく配分された様々な疾患の診療を行い、病棟チーフおよび主治医の指導の元、救急科ならではのテンポの良い急性期診療の完遂と早期転科・転院を目指します。